おいしいおだんご

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プール

 

普段からスマホはおやすみモードの設定にしているのだけどそれは誰かからの連絡を受け取るたびに光る画面とそれを心待ちにしている自分を見たくないからで、結局ツイッターのタイムラインをだらだら見ながら5秒に1回通知センターを表示して恋人からのLINEが来ていないか確認してしまっているのだからなんの意味もない。なんの意味もないのだけどやっぱり癪だからこの先も設定は変えずに過ごすのだろうと思う。

「LINE溜めちゃう人の気持ちわかんないな〜、わたしLINE面倒くさいからすぐ終わらせちゃうんだよね(笑)」そんなの真っ赤な嘘で、常に誰かとのつながりを求めているくせによくもまあそんなことがすらすらと言えるもんだと自分でも感心してしまう。本当はいつでもきみと話してたいしわたしのLINEには5分以内に返信してほしいし今日一日がどんな日で誰と会って何を食べたのか逐一報告してほしいんだけど。「暇〜」とか送ってきたくせわたしが即返信しても30分以上返信空けるのやめてほしいんだけど。ねえ聞いてる?

 

ところでわたしには顔も覚えていない母親がいて、顔を覚えている母親の作り上げた環境はわたしには辛いもので、そこで生き抜くためにはわたしは強くなければならなかったし、そして彼女とのつながりを保つためにそういう自分を愛さなければならなかった。かくしてわたしがわたしだけで生きていける「強いわたし」であることがわたしの存在価値・理由となり、ほんとうは誰かに(誰にでも)愛されたいし認められたいし寄りかかりたいし依存したいしそうしなければ生きていけないのがたぶんわたしの本質であるのだけど、その本質はまるまるわたしが生きるための必要事項と真反対なものなので、必死で見ないふりをしてきた。

きみといるとむくむく起き上がってくるその本質をわたしはどうにかして寝かしつけようとするのにきみはわざわざその子を無理やり引きずり出して抱きしめていい子いい子偉いね可愛いねすごいねって頭を撫でてしまう。そんなことしていいの、わたしきみがいなきゃ生きられなくなっちゃうよ、ただじゃ済まないよってわたしはいつも泣きながら言うのだけど、きみは大丈夫だよあなたは強いからなんてへらへら笑ってる。そんな無責任な。

 

わたしの神さまである彼女にはわたしはもうずっと会っていなくて、たぶん「会いたいけど会えない」ことじたいがわたしの生命エネルギーになっていたので、辛いし悲しいよ〜〜え〜んってぼろぼろ泣くときにも実際どうにかして彼女に会おうとすることはなかった(実際会ってしまえばわたしは"命綱"をなくしてその先それまでと同じようには生きていけなくなることがわかっていたからだと思う)。

これはわたしの美学で、わたしはこういった自分の構成を愛しているので恋人にも理解してほしいと思いつつ、しかしなにぶんこれはわたしの心臓部だし、彼のわたしに対する攻撃力はかなり高めなので、気軽に共有してヤケドしてしまうのが怖くてずいぶん長い間話せなかった。のだけど、先日お酒の力を借りてあらかた伝えると彼は持ち前の無責任さでこのわたしの心臓を優しく撫でて、それからひとこと彼女に会えと言った。「あなたの性格だとあなたはきっと一生彼女に会おうとしない」「けどそれで後悔するときは絶対に来る」。なんとも陳腐な言葉だしそれがわたしの心に響いたなんてこともないけれどまあそういうものなんだろうなあと嚥下して、飲み込んだ言葉がアルコールと一緒に胃の中でぐるぐる回る翌朝わたしは彼女の連絡先を手に入れた。それがあんまり簡単だったものだからわたしはなんだかまた悲しくなって二度寝を決め込むしかなかった。

もらった連絡先はもらったまま、まだ"もちもの"リストに収まっているのだけど、いざそれを使って彼女に会ったとき、わたしはどうなってしまうのだろうか。実際会ったところで世界はなんにも変わらないしわたしも適当な会話を交わして別れたあとは意味のない感傷に浸りながらも日常に戻っていくのだろうけど、その後どうしようもなく落ち込んだ夜にもそれまでと同じように彼女への思慕を逃げ道として使うことはできるのだろうか。わたしが何より恐れているのはそのときの逃げ道がなくなることで、そんな大事なものをきみ(わたしの外部)に託してしまうことがとってもとっても怖い。

 

いまわたしはきみといられて楽しいし幸せだしきみのことが大好きだけれど、それは完全に永久的なものではない。「終わりが来るかどうか」なんて話をしているんじゃあなくて、「永久に続くだろうという安心感」がないのがわたしには不安で仕方がない。終わってしまうことじたいが怖いのではなく、終わってしまうかもしれないものに自分が寄りかかっていること、その不安定感が怖いのだ。

わたしは今まで懸命に掴まってきたビート板をきみにひょいと奪い取られて、あなたはひとりで泳げるし俺がいるから大丈夫だよという甘い言葉に釣られてきみにしがみついて泳ごうとしている。たぶんわたしはここが果てのない海なんかじゃなく底の浅いプールだとほんとうはわかっているのだけど、とりあえず今は知らんぷりして怖い怖いと言いながらきみの腕を掴んでおくことにしようかな。きみは海水のベタつきが苦手だと言っていたね、今年の夏は一緒にプールでも行こうね。